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ヤル気のないフライドライス [カレーなるインディア]

前途有望職人

前途有望職人

アムリトサル黄金寺院にて, Jul 2004 India


本題に入る前にまず、『炒飯』と『フライドライス』の違いについて書いておかねばなるまい。

『炒飯』とは、塩、コショウをベースにしたシンプルな味付けのもと、卵、玉ねぎ、豚肉、はたまた子エビちゃんなんかをゴハンと一緒に強力火でジョワッと炒めた炎の料理のことであり、調理に要する時間はズバリ3分と32秒。見た目は全体的にあくまで白でありながらもしっかりとした味付け。パラパラとした仕上がりながらも米一粒一粒はふっくら。具と米粒たちが口の中で絶妙なハーモニーを奏でるゴハン料理の元祖玉座家元というべき逸品。そして、数々の伝説の料理人たちの重く厳しい四千年の歴史の前に、何人も「ウマイッ!」と唸ってしまうのである。

一方、『フライドライス』というのは、いわゆる炒飯の偽造料理であり、どーゆーわけか茶褐色色に黒光りしたものが多く、そのくせ味は曖昧である。つまり、美味くないのだ。

世界でも『炒飯』にありつくことのできる地域はごく限られており、本場中国を始め、タイ、マレーシアなど本格的な中国人街がある街、もしくは我が日本くらいである。したがって、旅先で「今日はチャーハンが食いたいぜ!」と言っても、口にできるのは大抵フライドライスなのである。嗚呼、何と悲しいことであろうか!

だがある時僕は、苦渋十年真実一路、研究に研究を重ねた末にフライドライスを結構いけるじゃん風に食う技をあみ出した。名付けて「ザ・月見フライドライス」。何だか凄みのある名前だが、実はただフライドライスに半熟の目玉焼きを乗っけただけのことである。しかし、そうすることで、タダのフライドライスはタダモノではないフライドライスへと変貌するのだ。半熟の目玉焼きをグチャと潰すと、見た目はさらにオゾマシイ物体となるが、食ってみるとそれはそれでなかなかイケるのである。無論、炒飯には門前500メートルにも及ばないが、タダのフライドライスより二階級格調が増す。


それはインド西端の街、アムリトサルでのことだった。

インドに滞在してこれかれ半年。もう我が人生にカレーは必要ないのではないかと悟り始めていた僕は一軒のツーリスト向けレストランへと出向いた。忙しない通りを見下ろす二階のテラス席を一人で陣取り、メニューを開く。そこに書き並べられているものはインドの他の街で見るソレと全く同一。カレー一筋千年国のサガか・・・

久しぶりに例のやつを試そうと、注文を取りに来たターバン男に少々上ずった声で注文した。
「ベジタブル・フライドライスとフライド・エッグ。あっ、卵1個ね。」
すると、その男はすかさず
「ノー・エッグ」
と切り返す。なんだ、卵を切らしているのか、と思ったら、彼はその後に奇怪なことを言うのだ。
「チキン・フライドライスには卵が入っている。」
とっさに意図が正しく伝わっていないことを察し、手振りを加えて言い直した。
「ベジタブル・フライドライス。アンド。フライド・エッグ単品ね。」
するとウェイターはまたもや
「ノー・フライド・エッグ。」
とスバヤク反応する。もしかすると僕は無理難題な注文を押し付けているのではないかという疑念にかられ、メニューを確認してみると、そこにはフライド・エッグのみならず、ボイルド・エッグ、スクランブル・エッグまである。それを指差し、
「メニューにあるじゃないか。」
と少々コーフンした調子で問いただすと、彼は
「フライド・エッグを作るシェフがない。」
とますます神秘的なことをいうではないか。もう彼の辞書には「フライド・エッグ」の文字はないかのごとく、妙に毅然としたスルドイ目で僕を睨みつけ、断固トコトン完全否定するのだ。

目玉焼き専門シェフという職業があるのか、インドには?僕は明らかに圧倒されながらベジタブル・フライドライスのみを注文した。

数分後、運ばれてきたのは黒光りした紛れもないフライドライス。空腹さえ満たされれば今夜はいいとしようと、完全にあきらめモードでそれを口に運んだ瞬間、僕の舌は瞬時に微量の毒物を感じ取ったのである。
「マ、マ、マサラ(カレー風味の香辛料)だ!」
それは、玉ねぎを切った後の包丁でリンゴを切ると、そのリンゴが玉ねぎ臭くなるように、微かに混入したマサラは口の中で大暴れし、さりげなく圧倒的な不味さを演出している。こういう軽犯罪的に不味いフライドライスですら、そこに半熟の目玉焼きさえ乗っかっていれば大事には至らないのだ。

絶望感から天を仰ぐ。
すると、空には美味しそうな目玉焼きのような月が浮かんでいた。

ケチなこと言わないで、目玉焼きくらい作ってくれたったいいじゃねーか。もっとヤル気を出せよ。

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mincer

眺海の森に行った時、入り口のそば屋で見事ににやる気のない蕎麦に出会したことがあります。ヌメリの取れていない怪しい艶っぽさ、薬味はチューブ、蕎麦湯はやかんで出てくる始末。なんだかそれを思い出しました(x_x;)
by mincer (2007-04-08 04:20) 

kobekko

カレーなるインディア・・・(笑)
頑固な人、職人さんにはいっぱいいそう・・・
by kobekko (2007-04-08 08:03) 

微妙なカレー味は確かにいやですね。
by (2007-04-08 09:49) 

Erin B

ぷくくくーーー^m^
やっぱりおもろすぎーーー
by Erin B (2007-04-08 10:25) 

アムリトサルですかー。
もーきち作者は10年ほど前、アムリトサルで年を越し新年一番乗りでパキスタン入国しようと企み、朝一に国境に行きましたが三番目でした。残念。
こんなことになるんやったら初詣に黄金寺院に行ったらよかったとパキスタンで後悔しました。
by (2007-04-08 18:50) 

kk123456

難しい。。。難しい国だ!
by kk123456 (2007-04-08 19:19) 

おいしいパラパラチャーハンが当たり前のように食べられることに
感謝します。しぇしぇ。で、「やきめし」ってぇのは・・・
by (2007-04-08 19:59) 

アズサ

私、炒飯苦手な人なのです・・・。
今回の写真の女の子は、すっごく可愛いですね。
でも、どうして手や顔が白くなっちゃってるのかな~?
by アズサ (2007-04-08 20:26) 

tm-photo

ご無沙汰しました。
相変わらず、サバイバル?してますね^^
写真もさらに磨きがかかってますね!
by tm-photo (2007-04-09 11:01) 

うらなみっこ

では次回から半熟卵は持参ですね。。
目玉焼き専門シェフなら私でもなれそうだなぁw
by うらなみっこ (2007-04-09 11:41) 

takepii

フライドライス、私も頂いたことがあります。
確かにフライドライス=チャーハンを想像しまして、
オーダーしましたが、まったくの勘違いであったことを
思い出します。

フライドエッグにも、ボイルドエッグにも職人技がいるとは、
どんなにコンピューター社会になろうとも、
世界はやはり広くて深いものです。
by takepii (2007-04-25 19:40) 

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