ヤル気のない水洗便所：UNTITLED OF WANDERINGS*

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2007.04.01

ヤル気のない水洗便所　[サディスティック・ネパール] [編集]

遥かな山旅の日だまりでした。

ナムチェ・バザール, Dec 2004　Nepal

前回に引き続き今回も無意味に長い。

年の暮れも押し迫る2004年12月。それはエベレスト・ベース・キャンプを目指して歩き始める矢先のことだった。

首都カトマンドゥからバスで約９時間。エベレスト・トレッキングの始点となる山間の宿場町、ジリ。一軒の客引き熱心な宿の３階南向き角部屋トイレ・シャワー共同に落ち着くと、間もなく向かいの部屋に同じバスに乗り合わせたフランス系カナダ人トレッカーが追ってやってきた。今夜の宿泊客は二名様也。

その夜、宿に併設のレストランで夕食にダル・バート（ネパール風カレー定食）を注文すると、出てきたのはエベレストのように盛り上がった米の山。先ずは目の前のエベレスト・ディナーをモーレツな勢いで制覇した。

翌朝、６時３０分にセットしておいた目覚し時計が鳴る３分前にバキッと目を覚ますと、魅惑的な噴出意欲に導かれるがまま、同階のトイレへ朝の恒例行事へと向かう。一基しかないトイレは珍しく洋式。ちゃんと便座まで備わっている。僕は和洋中どのスタイルにも対応する高度な技術を身につけているので、トイレが洋式であることは全く問題ではなかった。

昨夜のエベレスト・ライスのせいか、その日の朝は我がブツながら信じがたいほど迫力に満ちたものが産み落とされた。まさにエベレスト級。ほほーっ、としばし関心した後、勢いよく水を流すレバーを引いた。

が、しかし！

エベレスト・ウンコは奈落の底に吸い込まれていかない。水が流れないのだ。タンクの蓋を開けて、恐る恐る中を覗き込んでみると、そこは超局所的大干ばつ。

冷静に事態を分析して辺りを見回す。と、瞬時に右斜め前方にある蛇口とバケツを発見した。つまり、トイレにくっついているレバーはただの装飾もしくはデザインもしくはドッキリ・フェイントであって、最後はバケツに水を汲んで流すという非文明的システムなのだ。この地方ではよくあることである。

片頬をヒクヒクさせながら、僕は不安と余裕がないまぜになった笑みを浮かべ、その蛇口をひねった。

が、が、しかし！

水は非情にも出ない。この世に神は存在するのか！？幸い紙は持っていた僕は薄ピンク色のトイレット・ペーパーを丁寧に折り畳み、エベレスト・ウンコの上にそっと被せると、便器の蓋を静かに降ろし、意味はないがなぜか合掌した。

部屋に戻り、電光石火の速さで荷支度をする。一刻も早く山中へ逃げ込むのだ。「ヤリ逃げ」「不法投棄」「放置プレー」なんとでも言うがいいさ。人生逃げるが勝ちということもあるのだ。

レセプションへ行き、勘定を済ませる際、一応「便所の水が出ないぞ。」とクレームをつけた。しかし、それを知らずに宇宙規模的巨大ウンコをしてしまい、そのまま放置してあることは言わなかった。どうして言わなかったかは今となってはうまく思い出せない。もしかすると普通人類サイズのウンコだったら正直に言っていたかもしれないな。

運悪くそこに同階に泊まっていたカナダ人トレッカーが現れてしまった。そしてすぐさま「トイレの水が出ないよ。」と言った。彼は間違いなく便器に放置されたままのビッグ・ウンコを目撃している。そして、３階に宿泊しているのは彼と僕だけなので、それはすべからく僕が産み落としたブツだということに９９％確信をもっている。しかし、彼は「それでもってそこのジャポネーゼがよー、スモウ・レスラー級のウンコしやがってよー、それが流れないで放置してあるんだよ、ムッシュ。」とは言わなかった。その気遣いが逆に僕の自尊心をズタズタに切り裂いた。

それもこれもあれもどれも全部あの水の流れない水洗便所のせいだ。オマエなんかボットン便所以下なんだよ！

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