SSブログ

星降る夜に [カレーなるインディア]

らくだ

らくだ

タール砂漠にて, Jul 2004 India


星降るような夜だった
砂のいななく音がした
無数の星屑と無数の砂粒
それ以外何もなかった
星と砂だけの世界だった


タール砂漠にたたずむ一滴の村、クーリーを訪れた。

正午前、村の入口で停まったバスを降り立つと、直角に降り注ぐ陽差しが力まかせ に薄黄色い砂の大地を焼き続けていた。思わず空を見上げて太陽の位置を確かめる。ヤクザな太陽が青空の真ん中で「むはははは」と笑いながらふんぞり返っている。

夕方、頃合いをみて外に出る。太陽はまだ西の空の高い位置から鋭利な陽光を投げつ けている。10分余り歩くともう村の端っこ。駱駝草がまばらに生えそろったその奥に、巨大な砂の丘が見える。文字通り、砂丘。

360度、見渡す限り地平線。砂の丘の上に腰を下ろし、西の空で起こるその日一日のクライマックスを待つ。そこに団体観光客御一行様が到着した。フランス人のようだ。楽団でも引き連れてきたのか、突然けたたましい太鼓の音が響き出す。高らかな笑い声とともに下手くそな歌が聞こえてくる。頼むから静かにしてくれ。今ちょうどいいところなんだ。

太陽が西の地平線に姿を隠すと、それを追いかけるように団体観光客もそそくさといなくなった。深い静寂が訪れる。西の空に浮漂する紅い余韻も東の空から迫ってくる巨大な闇に押しつぶされていく。砂が手の甲を走り抜ける。空がにわかに騒がしくなる。夜が遥か彼方からやって来る。

勝手なもので、あれだけ嫌気がさしていた観光客たちの笑い声が急に恋しくなった。世界の端っこに一人取り残されたような不安がよぎる。星と砂だけの世界に。

情報が溢れるような世の中で生きている僕たちは、そんな世界が存在することすら忘れてしまっているのかもしれない。だから突然こんなところに放り出されると一体どうしたらいいのかうろたえてしまう。けれど、しばらくそこにじっとしていると情報の極めて少ない世界の持つ豊かさに気づいてくる。それは僕たちが忘れかけた想像力のようなものだろう。

nice! (19)  Comment (9) 

nice! 19

Comment 9

kk123456

小説を読んでいるかのような文章にいつも引き込まれます。
でもこれはtrue storyなんですよね。
目の前に世界が広がるようです。
by kk123456 (2007-03-11 00:26) 

gaucho

そういう旅がしたいです。
いますぐしたいです。
by gaucho (2007-03-11 02:38) 

ほんの国内の山中に分け入っただけで
そういう気分になったことがあります。
巨大では無かったですけど、深すぎる闇の中で
泣きそうになったことが・・・ってか泣いたかも~^^
by (2007-03-11 05:06) 

mincer

文才のある人は羨ましい...
そして、情景を上手に写せる人も
by mincer (2007-03-11 10:34) 

nnzpck_project21

おはつでおじゃまします!異国情緒たっぷりの写真と記事が素晴らしい。最近、私は旅に出ていないので、ストレスがたまる一方ですねwww。アジアで最も訪れたい場所は、大好きなカレーの国です。明日のディナーは、ビーフ・カレーにしようっと!?また、遊びにきます。
by nnzpck_project21 (2007-03-11 15:21) 

アズサ

そういう時間を過ごしてみたいです。
寂しさを乗り越えた時、私はどんな風に感じるのかな・・・。
by アズサ (2007-03-11 18:23) 

この場所にいること、感じることができたことを
とてもとても羨ましく思います。
by (2007-03-12 00:20) 

人の気持ちというか、矛盾というか、その変化を興味深く感じました。
「星の王子様」の物語を思い出しました。
by (2007-03-12 11:40) 

takepii

静かで、人の気配を感じない世界が存在することを、
頭で理解していても、やはり私には感じることができません。
そういうところへいける人をうらやましいとは思うけど、
私に耐えることができるでしょうか。
by takepii (2007-03-15 23:22) 

Post Comment

Name
URL
Comment
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。